1.赤城の子守唄
作詞:佐藤惣之助
作曲:竹岡信幸
泣くなよしよし ねんねしな
山の鴉が 啼いたとて
泣いちゃいけない ねんねしな
泣けば鴉が 又さわぐ
坊や男児(おとこ)だ ねんねしな
親がないとて 泣くものか
お月様さえ 只ひとり
泣かずにいるから ねんねしな
にっこり笑って ねんねしな
山の土産に 何をやろ
どうせやくざな 犬張子
貰ってやるから ねんねしな
2.旅笠道中
作詞:藤田まさと
作曲:大村能章
夜が冷たい 心が寒い
渡り鳥かよ 俺等(おいら)の旅は
風のまにまに 吹きさらし
風が変れば 俺等も変る
仁義双六(すごろく) 丁半かけて
渡るやくざの たよりなさ
亭主もつなら 堅気をおもち
とかくやくざは 苦労の種よ
恋も人情も 旅の空
情ないぞえ 道中時雨
どうせ降るなら あの娘の宿で
降っておくれよ しんみりと
3.さらば赤城よ
作詞:石田喜代夫
作曲:利根一郎
今宵かぎりの 赤城の山と
月も惜しむか 木の葉かげ
明日は無宿の はかない身にも
男忠治の 意地はある
すてる赤城に 未練はないが
人の情けにゃ つまされる
意地を通した 男の胸に
せめてなごりの 岩清水
肩に振り分け 手に三度笠
明日はいずこの 宿じゃやら
かわい身内の 情けを胸に
忠治淋しい ひとり旅
4.野崎小唄
作詞:今中楓溪
作曲:大村能章
野崎参(まい)りは 屋形船でまいろ
どこを向いても 菜の花盛り
粋(いき)な日傘(ひがさ)にゃ 蝶々(ちょうちょう)もとまる
呼んでみようか 土手(どて)の人
野崎参りは 屋形船でまいろ
お染久松 せつない恋に
残る紅梅(こうばい) 久作屋敷
今も降らすか 春の雨
野崎参りは 屋形船でまいろ
音にきこえた 観音(かんのう)ござる
お願(がん)かけよか 打たりょか滝に
滝は白絹 法(のり)の水
5.名月赤城山
作詞:矢島寵児
作曲:菊地博
男ごころに 男が惚れて
意気がとけ合う 赤城山
澄んだ夜空の まんまる月に
浮世横笛 誰が吹く
意地の筋金 度胸のよさも
いつか落目の 三度笠
云われまいぞえ やくざの果てと
悟る草鞋に 散る落葉
渡る雁がね 乱れて啼いて
明日はいずこの 塒(ねぐら)やら
心しみじみ 吹く横笛に
またも騒ぐか 夜半の風
6.すみだ川
作詞:佐藤惣之助
作曲:山田栄一
銀杏(いちょう)がえしに 黒繻子(くろじゅす)かけて
泣いて別れた すみだ川
思い出します 観音さまの
秋の日暮の 鐘の声
(セリフ)
「ああそうだったわねえ、
あなたが二十、わたしが十七の時よ。
いつも清元のお稽古から帰って来ると、
あなたは竹谷の渡し場で待っていてくれたわねえ。
そして二人の姿が水にうつるのを眺めながら
にっこり笑って淋しく別れた、
ほんとにはかない恋だったわね……。」
娘ごころの 仲見世歩く
春を待つ夜の 歳の市
更けりゃ泣けます 今戸(いまど)の空に
幼馴染(おさななじみ)の お月さま
(セリフ)
「あれからあたしは芸者に出たものだから、
あなたは逢ってくれないし、
いつも観音様を お詣りする度に、
廻り道してなつかしい隅田のほとりを歩きながら、
ひとりで泣いていたの。
でも、もう泣きますまい、恋しい、恋しいと思っていた
初恋のあなたに逢えたんですもの。
今年はきっと、きっとうれしい春を迎えますわ……。」
都鳥さえ 一羽じゃとばぬ
むかしこいしい 水の面(おも)
逢えば溶けます 涙の胸に
河岸(かし)の柳も 春の雪
7.築地明石町
作詞:藤田まさと
作曲:長津義司
河岸(かし)の小舟に ゆらゆら灯(あか)り
誰を待つ身の 花の眉
すねた夜風を 袂(たもと)に抱いて
憎くや今宵も 明石町
「想い出って、なぜこんなに悲しいのでしょう。
あたしまた今夜も、知らず知らずの間に、ここ
へ来てしまったのよ。女って弱いものだわ。
過ぎ去った昔のことばかり思って泣いている
んですもの。でも、これが女よ、笑わないで、
笑わないでちょうだいね。そして成功なすった
お姿を、一日も早く見せて下さいね。」
ほんに想えば 昨日のことは
今宵泣けとの 謎かしら
泣いてみたとて 詮(せん)ないけれど
女ごころの なんとしょう
「早いものね。もうあれから三年経ってしまっ
たんですもの。あなたが立派に成功なさる日ま
で、きっと待っていますと、お誓いしたあたし…
…、でも、それがみんな夢だったのね。変わっ
たわ、あなたがお変りになったと同じように、
あたしもすっかり変わってしまいましたわ。皮肉
じゃないのよ。いいえ、あたしはこれが一番い
いお互いの道だと思っていますの。あたし生
れ変わった気持で、これからの世の中を強く
強く、きっと生き抜いてみせますわ。」
情けひとつで 浮世が住めりゃ
なんで泣きましょ 都鳥
水の流れに 想いを捨てる
これも義理ゆえ 運命(さだめ)ゆえ
8.お夏清十郎
作詞:佐藤惣之助
作曲:大村能章
可愛いお夏を 小舟に乗せて
花の清十郎に 漕がせたや
春は夜明けの ソレ
こがれ潮
向う通るは 清十郎じゃないか
笠がよう似た すげ笠が
なぜにこいしい ソレ
顔かくす
清十郎殺さば お夏も殺せ
生きて思いを さしょよりも
なまじ情けが ソレ
仇(あだ)となる
9.お駒恋姿
作詞:藤田まさと
作曲:大村能章
七つ八つから 容貌(きりょう)よし
十九二十(はたち)で 帯とけて
解(と)けて結んだ 恋衣(こいころも)
お駒才三(さいざ)の 恥ずかしさ
初の島田に なぞかけて
いつか因果な 罪の淵
恨みまするぞ 母様と
涙気になる 黄八丈
恋と義理との 諸手綱(もろたづな)
引かれて渡る 涙橋
風にすねたか 黄八丈
袖に崩れる 薄化粧
10.むらさき小唄
作詞:佐藤惚之助
作曲:阿部武雄
ながす涙が お芝居ならば
なんの苦労も あるまいに
ぬれて燕の なく声は
あわれ浮名の 女形
すいちゃいけない すかれちゃならぬ
仇な一夜の 浮気船
乗せて流れて いつまでか
しのび逢うのも 恋じゃない
嘘か誠か にせ紫か
男ごころを 誰か知る
ちるもちらすも 人の世の
いのちさびしや うすぼたん
11.山は夕焼け
作詞:岡田千秋
作曲:田村しげる
山は夕焼け 麓(ふもと)は小焼け
ひとりとぼとぼ 裾野に暮れりゃ
吹くな木枯 侘びしゅうてならぬ
心しみじみ 旅の鳥
西に東に 仮寝の枕
思い遙かな ふるさと偲(しの)びゃ
遠い灯(あかり)が 恋しゅてならぬ
心しみじみ 里ごころ
塒(ねぐら)定めぬ はかない旅路
きょうもとぼとぼ 枯野を辿(たど)りゃ
沈む夕陽が 哀しゅうてならぬ
心しみじみ 一つ星
12.城ヶ島夜曲
作詞:浜野耕一
作曲:竹岡信幸
沖の潮風 便りをたのむ
三浦三崎の いとしい人へ
搗布(かじめ)焼く火の
ほのゆれ立つ あの浜へ
島の燈台 ほのめくたびに
見えてかくれる 通り矢の夜釣舟(よぶね)
なぜに届かぬ
このせつない わが想い
利久鼠の 雨降る夕べ
空に銀河の さやかな宵も
恋し三崎の
灯を眺めて 磯に佇(た)つ
13.湖底の故郷
作詞:島田磬也
作曲:鈴木武男
夕日(ゆうひ)は赤し 身は悲し
涙は熱く 頬濡らす
さらば湖底の わが村よ
幼なき夢の 揺籠(ゆりかご)よ
あてなき道を 辿(たど)り行く
流れの旅は 涙さえ
枯れてはかなき 想い出よ
ああうらぶれの 身はいずこ
別れは辛(つら)し 胸傷(いた)し
いずこに求む 故郷(ふるさと)よ
今ぞあてなき 漂泊(さすらい)の
旅路へ上(のぼ)る 今日の空
14.琵琶湖哀歌
作詞:奥野椰子夫
作曲:菊地博
遠くかすむは 彦根城
波に暮れゆく 竹生島(ちくぶしま)
三井の晩鐘 音絶えて
何すすり泣く 浜千鳥
瀬田の唐橋(からはし) 漕(こ)ぎぬけて
夕日の湖(うみ)に 出(い)で行きし
雄々(おお)しい姿よ いまいずこ
あゝ青春の 歌の声
比良の白雪 解けるとも
風まだ寒き 志賀の浦
オール揃(そろ)えて さらばぞと
しぶきに消えし 若人よ
君は湖の子 かねてより
覚悟は胸の 浪枕(なみまくら)
小松ヶ原の 紅椿(べにつばき)
御霊(みたま)を護(まも)れ 湖(うみ)の上
15.上海の街角で
作詞:佐藤惣之助
作曲:山田栄一
リラの花散る キャバレーで逢うて
今宵別れる 街の角
紅の月さえ まぶたににじむ
夢の四馬路(スマロ)が 懐しや
「おい、もう泣くなよ。あれをごらん。ほんのり
と紅の月が出ているじゃないか。何もかもあの
晩の通りだ。去年初めて君に逢ったのも、
ちょうどリラの花咲く頃、今年別れるのも、
またリラの花散る晩だ。そして場所は、やっぱ
りこの四馬路だったなァ。あれから一年、激し
い戦火をあびたが、今は日本軍の手でたのし
い平和がやって来た。ホラお聞き、ネ、昔な
がらの支那音楽も聞こえるじゃないか。」
泣いて歩いちゃ 人目について
男船乗りゃ 気がひける
せめて昨日(きのう)の 純情のままで
涙かくして 別れよか
「君は故郷(くに)へ帰って、たった一人のお母さんと
大事に暮し給え。僕も明日からやくざな“上海
往来”をやめて新しい北支の天地へ行く。そ
こには僕の仕事が待っていてくれるのだ。ね
え、それがお互いの幸福だ。サァ少しばかり
だが、これを船賃のたしにして日本へ帰ってく
れ。やがて十時だ。汽船(ふね)も出るから、せめて
埠頭(バンド)まで送って行こう。」
君を愛して いりゃこそ僕は
出世しなけりゃ 恥しい
棄てる気じゃない 別れてしばし
故郷(くに)で待てよと いうことさ
16.麦と兵隊
作詞:藤田まさと
作曲:大村能章
徐州(じょしゅう)徐州と 人馬は進む
徐州居よいか 住みよいか
酒落(しゃれ)た文句(もんく)に 振り返りゃ
お国訛(なまり)の おけさ節
髭(ひげ)がほほえむ 麦畑
友を背にして 道なき道を
行けば戦野は 夜の雨
すまぬすまぬを 背中に聞けば
馬鹿をいうなと また進む
兵の歩みの 頼もしさ
腕をたたいて 遥(はる)かな空を
仰ぐ眸(ひとみ)に 雲が飛ぶ
遠く祖国を 離れ来て
しみじみ知った 祖国愛
友よ来て見よ あの雲を
行けど進めど 麦また麦の
波の深さよ 夜の寒さ
声を殺して 黙々と
影を落として 粛々(しゅくしゅく)と
兵は徐州へ 前線へ
17.国境の町
作詞:大木惇夫
作曲:阿部武雄
橇(そり)の鈴さえ 淋しく響く
雪の曠野(こうや)よ 町の灯(ひ)よ
一つ山越しゃ 他国の星が
凍りつくよな 国境(くにざかい)
故郷離れて はるばる千里
なんで想いが 届こうぞ
遠きあの空 つくづく眺め
男泣きする 宵もある
行方(ゆくえ)知らない さすらい暮らし
空も灰色 また吹雪
想いばかりが ただただ燃えて
君と逢うのは いつの日ぞ
18.流浪の旅
作詞:宮島郁芳・後藤紫雲
作曲:宮島郁芳・後藤紫雲
流れ流れて 落ち行く先は
北はシベリヤ 南はジャワよ
何処の土地を 墓所と定め
何処の土地の 土と終らん
昨日は東 今日は西と
流浪の旅は 何時までつづく
果てなき海の 沖の中なる
島にでもよし 永住の地欲し
思えば哀れ 二八の春に
親の御胸を 離れ来てより
過ぎ来し方を 思いて我は
遠き故郷の 御空ぞ恋し
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